来 歴


豊潤な問答


老いたウグイスやキビタキの話しかける声
フサザクラ別名タニグワの葉ずれの音
立ち並ぶスギ木立の礼儀正しい挨拶
足もとに落ちているゴゼンタチバナの花の色
遠い道のりを激しく駆けぬける谷川の叫び
梢のあいだから顔を出す陽気な空と木々の会話
海のように深く落ちこんでいる草の斜面からは
高波の姿勢をした霧が身をすり寄せてくる
これらとめどないおしゃべりには
きりもなくうなずいて合図を返すことだ
アケビがさがっている曲がり角では
その長い茶褐色のつるによく似た
乾いた思想のことを思い出してやることだ
折れなければいいが
いやなかなか折れはしないだろうと
親密な声に出して返事をしてやることだ

わき目もふらずに向こうまで行き
何もしないで帰るのにはもう飽きた
迷うために歩くことがなぜいけない
はるかなゆくては確かに私のものだ
どこかでえじきになるなとこだまがする
やがて饒舌な森にのみこまれるまで
枯れたぬけがらになりきるまで
森との豊潤な問答に精神を傾けていたいのだ

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